板金加工工場に携わる方向けに、協働ロボットをテーマにしたコラムです。当社が、協働ロボットの販売を通じて得られた経験や考え方をお伝えし、皆様の生産活動に少しでもお役にたてれば幸いです。
人手不足とロボット・AIの時代へ
日本の労働人口の減少と課題
ほとんどの日本の会社では、人手不足という状態が続き、工場経営のなかで人材獲得が最重要課題になっています。2023年の日本の出生率は1.39で、世界のなかで215/227位でした。G7のなかでは6位です。日本は、最も進んだ少子高齢化国です。将来の担い手となる若者は貴重な存在となり、シニア・女性・障害をお持ちの方の社会参加率を増やして労働力を確保しなければならないと言われています。
人手不足を解消する技術的な手段としては、ロボットやAIを活用することが注目されています。レストランでは、タブレットで注文し、配膳ロボットがテーブルまで料理を届けてくれます。ECサイトでは、わからないことはAIがチャットで回答してくれます。体が不自由な方が、アバターを通じて接客のお仕事をされているという記事を読みましたが、これも技術の進化がもたらしたものです。様々な取り組みがスタートしていますが、次の労働需給シミュレーションを見ると、現段階の人手不足感はまだまだ入口です。労働力を解消するロボットやAIの社会実装は、これから加速させるべき課題です。
板金加工工場のロボット・AIの活躍
日本の板金加工工場でも、ロボットやAIの導入は進んでいます。ブランク加工機の給材や加工品の取り出し装置、曲げ加工機の金型交換装置やロボットによる全自動加工システムやパネルベンダー、レーザー溶接ロボット、MIG/MAGやTIG溶接のロボットが年々増加していると実感しています。
これらの機械装置にAIを実装し、人間が調整していた内容を自動的に補正するシステムを搭載したものも誕生しています。また、AIは、図面検索や見積検索システムでも活用されていますので、身近な存在になってきました。これからも日進月歩で進化していくはずです。
板金加工製品は、前述の工程以外にも多くの工程を経て、完成していきます。かつ、少量多品種生産です。この2つの特徴が、自動化のハードルを高くしています。ここ数年、柔軟な自動化システムが構築できるロボットとして、協働ロボットが注目されています。
従来の産業用ロボットと比べ、軽量コンパクト、ダイレクトティーチング機能があり、ロボットと人間が干渉したらロボットは停止するなど安全機能が向上しています。今までロボットの導入を諦めていた場所にも設置することが可能です。日本の産業用ロボットメーカーも、各社が協働ロボットをラインナップしています。
産業ロボットと協働ロボットの安全対策
前項で協働ロボットは、産業用ロボットよりも安全性が向上していると記しました。安全柵がなくても運用できるように、ロボットが衝突したら停止する機能などが付加されています。しかし、ロボットだけでは生産活動を行うことはできないので、必ずロボットの先端にサンダーや溶接トーチなどの道具を取り付け、システム化することになります。
ロボットシステムの安全対策は、ロボットのみならずシステム全体の安全性を考えなければなりません。例えば、ロボットの先端に鋭利なナイフを固定し、ワークを切断したり削ったりするシステムを想像してください。ロボットと人が接触すれば停止する協働ロボットもナイフと人が干渉したとなると停止するかどうかはわかりません。何故ならば、ナイフの先端は鋭いため、ロボットが感じる負荷は小さいからです。このケースでは、協働ロボットでも、ナイフに人が触れないように安全柵などを検討し設置しなければなりません。
危険源を考え、対策を講じることを「リスクアセスメント」と言います。協働ロボットでも、産業用ロボットと同様に安全対策が必要になる場合があることを知って頂きたいと思います。当社では、協働ロボットをご購入して頂きましたお客様にも「産業用ロボット特別安全教育」の受講をお願いしております。その理由として、協働ロボットは産業用ロボットのカテゴリーのなかに位置づけられているからです。「産業用ロボット特別安全教育」の受講は、協働ロボットシステムに携わる方にも、有益なトレーニングになります。
産業用ロボットと協働ロボットの違い
このように、産業用ロボットの枠組みのなかに協働ロボットが存在しているため、適用される法令も重なり合うようになっています。しかしながら、それぞれは異なるコンセプトのため、それらの仕様は大きな違いがあります。代表例は、ロボットの動作速度です。安全柵が必要条件の産業用ロボットは、俊敏で高速です。協働ロボットは、人とぶつかったら停止するように出来ており、速度の制限もあります。仕様では見劣りする協働ロボットですが、カタログでは見えてこない多くの能力を有しています。
詳細は別のコラムでご説明しますが、産業用ロボットと協働ロボットの違いは、パソコンとスマートフォンとの関係に似ていると考えています。様々なご意見があると思いますので、一つの考え方としてお聞きください。例えば、Microsost365を利用すると、パソコンでもスマートフォンでも、クラウドサーバーにアクセスし、異なる端末から同じアプリケーションを利用することができます。できることは同じですが、より細かな作業や精密な情報を処理するときは、大画面のパソコンを利用されると思います。
一方、スマートフォンは、外出先でもすぐにクラウドデータにアクセスし、必要な情報を加工することできます。画面は小さいですが、場所を選ばず瞬時に情報処理できるのが特徴です。それぞれ得意不得意がありますが、目的と環境により使いやすい方法を選択されています。
産業用ロボットは、車を持ち上げられる大型ロボットからピンセットで持つような軽量ワークに対応する小型精密ロボットまで、様々なバリエーションが存在しています。また拡張性が高く、自動化に向けたオプションは豊富ですが、アプリケーションを変更することは大変な作業になります。一方、協働ロボットは、直感的に行える操作が特徴です。スマートフォンと同様に、様々なアプリケーションをインストールすることで、用途に合わせた仕様変更を簡単に行うことが可能です。
対象のワークに焦点を合わせしつつ、産業用ロボットと協働ロボットの違いを理解することが、最適なロボットを選定する方法です。
まとめ
- 現在も深刻な労働力不足ですが、1-1項のリクルートワークス研究所の労働需給シュミレーションによると今後も労働の需給ギャップは更に大きくなっていきます。少子高齢化の傾向は続きますので、とりわけ若年層の雇用は更に厳しくなると思われます。今から15年後の2040年は、現在、デジタルネイティブと言われる世代の子供たちが働く時代です。彼らが働きたくなる工場づくりが求められています。
- 板金加工製品は、少量多品種生産、かつ多工程を経て完成します。自動化の障壁は高いままですが、ロボットやAIの発達により、その可能性は広がりました。私たちは、特に協働ロボットに期待しております。スマートフォンのような使いやすさがあり、加工工程を分散し、人間とロボットが分業することで、板金加工のロボット化を実現してくれる働く仲間になると考えています。